いま私たちが普通にお刺身を食べることができるのは、魚の冷凍技術の発達や冷蔵庫で保存ができるようになったからです。特に夏のお刺身は、漁村などの地域や、魚市場のすぐ近くでないと食べることはできませんでした。魚がたちまち傷んでしまうからです。そのことを思うと、現代社会に生きる私たちは、真夏に冷たいお刺身、氷を使って冷たい飲み物や氷菓子を食べら 8月号-60 れるというのは、とてつもなく贅沢と言えるでしょう。もっとも冷蔵庫・冷凍庫のない時代でも、王侯貴族は夏に冷たい食べ物を楽しんでいました。いまから2500年前の孔子が生きていた時代、中国には氷の貯蔵庫である巨大な氷室(ひむろ)があったことがわかっています。古代ギリシャや古代ローマでも山から運んだかき氷にハチミツなどをかけて楽しんでいました。日本でも清少納言の『枕草子』に「削り氷(けずりひ)」というかき氷が出てきます。山の洞窟などに「氷室(ひむろ)」という氷の貯蔵施設を作り、夏になると氷を切り出して上級貴族や将軍などが涼を楽しんでいたようです。とはいえ、夏に氷を楽しめるのはほんの一部の富裕層だけ。富士山の洞窟に氷室を作って江戸に運ぶとしても、その多くが溶けてしまいます。当然、氷の値は上がり庶民に手が届くわけもありません。やがて時代は幕末をむかえ、これまで以上に海外との交流がはじまります。するとあるアメリカ人が、アメリカの●冷凍庫がない時代でも支配者は氷菓子を食べていた●明治時代、ボストンから氷を輸入
元のページ ../index.html#60