おもしろコラム 巨椋 修
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江戸時代になってくると、茶道や懐石料理も武士、公家、僧侶だけのものではなくなり、広く庶民に浸透してゆきます。食事というものは、栄養補給だけではなく、五感すべて使って楽しむ食事を娯楽・快楽として楽しむためには、ある程度以上の知性や感性、豊かさが必要で、知性という点では江戸時代の農民や商人・職人の文盲率は、1~3割あったとも言われるくらい優れたものでした。これは同時代のヨーロッパ諸国や中国の文盲率が8~9割であったことを考えると驚異的な数字です。人間、文字が読めれば本を読みます。江戸時代の寛永20年(1643年)に「料理物語」という本が出版されたのをはじめ、数多くの料理本が出版されるようになり、料理法が広まることになりました。天明2年(1782年)には、いかに豆腐を楽しむかという「豆腐百珍」という本がベストセラーになり、他に「甘藷百珍」「海鰻百珍」「蒟蒻百珍」がシリーズ化するほどに読まれています。こういった本を読んでいたのは、特に武士階級の人々だけではなくむしろ庶民階級の人々が、自分たちの食卓を豊かにするという楽しみのために読んでいたのです。娯楽でもあります。“”       52

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