おもしろコラム6月号
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乙姫、大ピンチです。こんな時、並みの乙女なら泣きわめいて引き止めるでしょうが、乙姫は違います。玉手箱を一つ手渡して、浦島太郎を気持ち良く見送りました。イイ女です。一言「この玉手箱は決して開けないように」と念を押して。こう言われても開けてみたくなるのが人のサガで。浦島太郎も御多分に漏れず開けてしまいます。開けた玉手箱からはもやが立ち上り、浦島太郎は老人になってしまいました。『御伽草子』では鶴に変化しています。 この「もや」とは一体何だったのでしょうか。老人になったことを考えると、恐らく時間です。乙姫から手渡されていることから「思い出」とも捉えられます。浦島太郎は二人で過ごした時間、思い出を振り返っているうちに老人になってしまったのでしょう。こうなると新しい恋などできません。これこそが乙姫の狙いだったのでしょう。ありったけの思い出を浦島太郎に思い出させ、他の女性に目を向けさせない。『御伽草子』バージョンでは、浦島太郎は鶴になって亀の乙姫と蓬莱山で暮らすようになっていますから、復縁までしてしまっています。乙姫の一途な思いには感服です。もし、恋人と別れたくない、もしくは復縁したいと願うなら、乙姫にならって二人で過ごした時間を相手に思い出してもらうよう仕向けてはいかがでしょうか。良い結果になるかも知れませんよ。  -              (講談師、コラムニスト旭堂花鱗)2019066月号-135

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