おもしろコラム7月号
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のをやったんですよ。それだけに震災で全て失ったのがショックだったんでしょうね。実家に帰ってきて、居間でぼそっと、『うち、もう、神戸から帰ってくるわ』と言うのを聞いて、風呂上がりだったかの母が怒るでもない、実にさらっとした語り口で、『商売人が帰って来てつまるもんね(ダメよ)』と言うんですよ・・・と。すると、姉が「お母ちゃん、何も知らんからそんなこと言えるねん。うちの店、柱傾いてるねんで。のれんがかからへんねんで・・・」と言うと、母が「のれんがかからんなら提灯ば下げれば良かたい。提灯ならどこでん、まっすぐ下がろうが」と言うんですよ」・・・と。「提灯ならまっすぐ下がる・・・」、この、当然といえば当然の理論に私は、思わず、「ほーーー!」と声を挙げましたよ。物理的な視点の斬新さもながら、「のれんが掛からないから商売が出来ない」という意見に対して、諦めない発想の転換の見事さと、何より、悲嘆に暮れる愛娘の声に対して無条件で同情しないその気丈さ・・・。 「実は、姉は地震の半年ぐらい前に少しずつ貯めたお金が1億円貯まったと言って、1億円貯金パーティーという    7月号-148     

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