おもしろコラム7月号
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史」だったのでしょう・・・。作詞を担当した詩人、サトウハチロー氏について。私にとって、この人は、早くから、子供の頃によく耳にした童謡「ちいさい秋みつけた」の作者として、認識しておりましたが、近年、そんな哀感溢れる詩を作る割には、派手な・・・を通り越して、破天荒な私生活で有名な人であったとも聞きました。(まあ、親父の佐藤紅緑も、口論の挙げ句、料亭に火を付けたりなんてエピソードがあったくらいですからねぇ。)その氏が作詞した、この「りんごの唄」ですが、元々は、軍歌として作られた物だったとか。軍部の「音楽は軍需    7月号-160  品である。」・・・という意向の元、軍歌として作ったものの軍の検閲によって「軟弱である!」として却下され、以来、ずっと氏の手許で暖められていたもので、それが、戦後、「敗戦にうちひしがれた国民を励ましたい」という意向の元で、映画「そよかぜ」の上映に向け、その主題歌の作詞を依頼された氏が、「国民を元気づけるのは詩人の義務だ」と言って傍らから出してきたのが、この詩だということでした。この「りんごの唄」って、確かに、曲調は確かに明るい、はずんだ歌でしょうが、歌詞だけをみたときには、割と普通の情景です。この詩のどこに「明るく励ます、元気づける・・・」なんて部分があるというのか・・・。 「赤いリンゴに ちは よくわかる とか「負けるな!」、「立ち上がれ!」なんてのは出てきませんよね。でも、現実に、この歌は、肝心の映画が霞んでしまうほどに、当時の人々の心を魅了し、多くの人に歌われ、活力を与え、そして、愛されたわけですから、本当に、日本中、津々浦々で口ずさまれた歌だったのでしょうが、そこまで人々の心を捉えたほどの歌でありながら歌詞は何の変哲もない淡々とした情景・・・。口びるよせて だまってみている リンゴ可愛や 可愛やリンゴ」・・・って、特別なことはどこにもないし、一言も、「頑張れ!」青い空 リンゴはなんにも 云わないけれど リンゴの気持    

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