おもしろコラム8月号
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えば、これができない人間は建設現場にいるべきではないということです。この点で思い起こすのが、以前、たまたま見ていたテレビで、「若い時に、お笑い芸人になったが、親に反対されて連れ戻された男が、今も夢が忘れられず、当時の相方とまた漫才をしたいという願いを叶える」という番組。親としては、「堅い仕事に」ということだったようですが、でも、息子は放送時点で失業中。堅い仕事についた結果がこれなら、親は一体、何のために断念させたのか?という気になりました。もっとも、当時は、戦後の生活難の記憶があった時代。「海の物とも山の物ともつかないことをやるより、堅い仕事に」という空気は社会全体にありましたから、親も特別酷いことをしているというつもりもなかったでしょうね。(おそらく、同じことを言ったら、うちの親も同    8月号-138  じ対応をしたでしょう。)でも、特撮の神様・円谷英二は、撮影技師になりたかったのに、故郷福島に呼び戻され、家業の麹屋を継がされそ/        (小説家 うになったとき、配達に出るふりをして、駅前に自転車を乗り捨て、そのまま、東京に出たと言いますから、彼も、そんなに好きだったのなら、諾々として、親に従うのではなく、時間をかけてでも説得するか、飛び出すかくらいすべきだったでしょう。「好きこそ物の上手なれ」と言いますが、人間、好きでやっているのが一番強いわけですから。      池田平太郎 絵:吉田たつちか)

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