おもしろコラム8月号
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     「桃」 夏の象徴と深遠なメタフォー私が初めて桃を食したのは小学生の時。姉の彼氏が東京から来た時にお土産に持参した。手で皮がするりと剥けて、すべすべとした肌が現れ、甘酸っぱさと、みずみずしさが記憶に刻まれ、今でも大好きな果物の一種だ。桃は美味しい果物だけでなく、様々な文化や伝説にも深く伝わってきた。古代中国の伝説によると、仙人たちは桃を食べて不老不死になったと言われている。また、日本の昔話「桃太郎」もまた桃に由来する。大きな桃から生まれた英雄が、鬼を退治するという話。ここでも桃は生命や勇気、希望のメタフォー(他の物事になぞらえて表現する比喩)として描かれています。しかし、私たちは桃に始まるこの深遠なメタフォーを考えながら、食べるわけではなく、ただ、その果肉が口に溶け、甘酸っぱさが舌を刺激する瞬間を楽しむ。桃はある種、私たちが人間であること、生きていることの証ともいえる。その風味を感じることで、私たちが五感を持つ生物であることを再確認する。        8月号-26  

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