おもしろコラム9月号
132/182

もあるわけですね。     (小説家 税は国の基本である。こういうと、何だかいかにも税務署に媚びを売っているようだが、別に媚びを売らんがために言っているわけでもない。そもそも、税務署員は税金を徴収したからといって彼ら個人の懐に入るわけでも無い。なのに、彼らは職務に忠実であり、ゆえに歓迎されない。特に戦後の生活難の時代、税務署は蛇蝎のごとく嫌われ、疎まれ、時には憎まれることさえあった。おそらく、本人はもとより、妻子もまた随分と肩身が狭い思いをしたのではないか。そこまでの思いをしてまで彼らは自らの職務を執行しようとした。それが彼らの仕事であると言ってしまえば確かにそうであるだろう。だが、彼らとて、人間である。戦後間もない頃、山口良忠に代表されるような、闇米を取り締まる側の人間ゆえに食糧管理法を遵守し、餓死して行った人もあったように、自らの職務に対する疑問譴責の念と現実生活の狭間で身悶えするような思いをした人も少なくなかったのではないか。まさしく、「職務と人情を秤に掛けりゃ」であろう。一方で、税負担は謳われているほど牧歌的なものでもないことも、また事実である。「元来、税法は、税務官庁が勝手気ままに税金をとるための法律ではない。税法に定めた基準以上に、課税しないと約束した法律である。(憲法池田平太郎絵:吉田たつちか)201309/-     税は国の基本131

元のページ  ../index.html#132

このブックを見る