おもしろコラム11月号
160/200

   ちょっと目を離したら永別原爆投下から間もない頃に撮影されたことで知られる昭和28年(1953年)公開の映画「ひろしま」。その中で、被爆した父の姿にショックを受けて建物から走り出た幼い妹を、兄が一拍、間を置いて追いかけたところ、そのまま生き別れになってしまった・・・というシーンがありました。ちょっと、目を離したら永別という話ですね。もちろん、今もそういう話を聞かないわけではありませんし、このシーン自体もフィクションなのでしょう。が、と言って、それほど過剰演出な話というわけでもありません。私も、1960年代頃までは、夕方遅くまで遊んでいると、「人さらいが来るぞ」などと言われましたし(「人さらい」と言う言葉が死語になっただけ、良い時代になったと。)、さらに昔は、赤子を田の畔に置いて農作業をしていたら、鷲や鷹が飛んできて、そのまま掴んで、どこかへ飛んで行ってしまったと・・・いうようなこともあったようです。親が気づいて、慌てて、追いかけたところで、追い付くはずもなく。実際には猛禽類の餌になったのでしょうが、「あの子は、お寺の門前に落とされ、そこで育てられて弘法大師空海になった」という伝説にこそ、諦めきれない親たちの無念さが潜んでいるような気がします。たとえ、動物も含めた誰かが介在しなくとも、子供にとっては知らない街はどこも同じような家ばかりで、大げさでなく迷宮。そのまま、永別などということもあったようです。(事実、松本清張の叔母は広島の猿猴橋の上でいな11月号-159くなり、家族皆で「夜っぴきで捜した」が「とうとう、どこへ行ったかわからんように」なってしまい、それきりだったのが、15年ぐらい経って、突然、炭鉱夫の女房になって皆の前に現れたということがあったそうです。)   

元のページ  ../index.html#160

このブックを見る