・文:食文化研究家:巨椋修(おぐらおさむ)
・/絵:吉田たつちか
・発行:2021年3月
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日本人は年間約330個の玉子を食べるそうです。ほぼ一日一個近くを食べているわけですね。玉子には、食物繊維とビタミンC以外すべての栄養素を含んでいる完全食。日本人はたんぱく質が足りないと言われているのですが、そのたんぱく質を大量に含んでおり、しかも低糖質といった、ありがたい食べ物といえるでしょう。
かつては玉子の摂りすぎるとコレステロールが高くなるから、1日1個以上は食べちゃダメと言われていましたが、いまでは玉子とコレステロールは関係ないとされ、1日5個以上毎日食べても問題ないという研究もあるようです。
さて、「もし1日2ドル(約210円)で暮らさなければいけないとしたら、どのように生活の質を改善させるか?」という問いに対して、マイクロソフトの共同設立者で個人資産世界一のビル・ゲイツは次のように答えました。
「ニワトリを飼いましょう」
と…… アフリカなど貧困に苦しむ家族が、数羽のニワトリを飼うとそこからヒヨコを育て、数十羽に増やすことができる。成長したニワトリは1羽5ドルで売れ、玉子で栄養も摂れる。そして貧困の最低ラインである年収700ドル(約7万3000円)を上回る1000ドル(約10万4000円)を1年間で得ることができるようになると。
※
人類がニワトリを飼うようになったのは8000年前とも4000年前とも言われています。原種は東南アジアにいた野鶏を飼いならして、全人類に広まっていったようです。
世界にはいろいろな宗教があって、ある食べ物をタブーにする場合も少なくない。例えばヒンズー教ではウシはダメ、イスラム教ではブタはダメといったタブーがありますが、ニワトリはダメといった宗教は聞いたことがありません。
現在、世界で飼われているニワトリは200臆羽とも650臆羽とも。人類が78億人ですから圧倒的な多さです。
この圧倒的多さというのは、ニワトリが人類の食を支えているということでもあります。2012年、鳥インフルエンザがメキシコシティで流行し、メキシコシティのお店から鶏肉や玉子が消えたことがあるんです。すると途端に暴動がおきた。それほどニワトリは人類の食卓に影響を与える存在であるということであり、また命を支えているとも言えそうです。
だからNASA(アメリカ航空宇宙局)でもニワトリを宇宙ステーションで飼えるかなんていう研究をしているそうです。宇宙ステーションや他の惑星にウシやブタを連れ行って飼育するのは大変ですが、ニワトリなら低コストでカンタンですから。
日本の食文化でも、ニワトリは重要でした。昔の日本は肉食を避ける伝統がありましたが、ニワトリは別。玉子に関しては、江戸時代のベストセラー『卵百珍』には103種類の玉子料理が掲載されています。
アメリカでも開拓時代、鶏肉料理が発達しました。開拓時代は、いつも飢えと戦っていた時代。特に貧しい白人、黒人ユダヤ人にとって、貴重なたんぱく源でした。
そんなアメリカ南部の鶏肉料理から生まれたのが、現在世界中に広まった『ケンタッキーフライドチキン』だったりします。
人類史においても食文化史においても、ニワトリはなくてはならないものなのでした。
(巨椋修(おぐらおさむ):食文化研究家)2021-03