・文:食文化研究家:巨椋修(おぐらおさむ)
・/絵:吉田たつちか
・発行:2020年10月
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●地球を席巻した家畜動物たち
食文化について調べていると「もしかしたら、家畜たちは人間に食べられることによって生き残りに成功したのかも……」なんていうと「なんてゴーマンな人でしょう。ウシさんもブタさんも人間に食べられたいなんて思ってませんよ。そんなの人類の思い上がりです!」という非難の声が聞こえてきそうです。
いまから1万年ほどまえ、人類は他の動物を飼うことによって、狩猟より安定した食料を得ることを思いつきました。
代表的なものだとイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギブタ、ニワトリなどなど。
ではこれらの動物たちの野生種は現在どうなっているでしょう? イヌの原種オオカミは絶滅危惧種。野生ネコや地上最強クラスのトラやライオンもほとんどが絶滅寸前。ウシの原種であるオーロックスは17世紀に絶滅。バッファローとも言われるアメリカ・バイソンは一時絶滅寸前になり、なんとか復活。ヨーロッパ・バイソンの野生種は絶滅するもアメリカ・バイソンとのハイブリッドを作り、野生に再導入にして生き残っています。他の家畜の野生種も決して数が多いというわけではありません。
一方、家畜のウシは世界中で14.7億頭、ブタは9.9億頭、ヒツジは12.0億頭、ヤギは10.1億頭、ニワトリに至ってはなんと214.1億羽!
生物の目的が、自分の遺伝子や種を後世に残すことだとすると、家畜化された動物たちは人間に飼われることで大成功しているとはいえるのです。
●人間に栽培されるために擬態した植物たち
人類が農耕をはじめたのは最初、コムギの栽培だったようです。人間たちはコムギを栽培することで、その数をどんどん増やしていきます。当然、人間に食べられるコムギも数と生息地を人間と共に増やしていきました。
それから数千年、コムギ畑の周囲にはコムギの仲間であるカラスムギやオーツムギが自生していたのですが、彼らは”雑草“として人間に引っこ抜かれ続けていました。
そこでちょっとした変化がありました。なんとカラスムギやオーツムギたちが、コムギに擬態、つまり姿かたちを似せてきたのです。そうすると人間たちがこれまで雑草扱いしていたカラスムギたちを食用に育てるようになったと言われています。
●人間に育てさせるという生き残り戦術
人間が家畜を選んだのではなく、家畜が人間を選んだ。カラスムギが人間に栽培されるためにコムギに擬態したというのが近年言われている学説です。
それまでは「進化は自然が、生物に無目的に起きる突然変異を選別し、進化に方向性を与える」という自然選択説(自然淘汰説)という仮説が定説とされてきました。それが揺らぎつつあるということです。
また脳がない植物たちですが、知性や記憶力があることが最近の研究でわかってきました。人間以外の動物にも当然、知性がありそれらの知性は【進化】や【種の生き残り】をかけて生きており、ある生物学者の言葉を借りれば、生命というのは【進化か絶滅か】で常に戦っているそうです。
例えばウィルスを生命とするかどうかは別にして、人体など宿主に入り込んだエイズウィルスなどは、最初、毒性が強すぎてすぐに宿主を殺していましたが、脳がないはずの彼らも「宿主を殺せば自分たちも死ぬ。よって殺さない程度に毒性を弱めて繁殖しよう」という選択をし、現在、医学の発展もあいまってエイズは死なない病気になって現在に至っています。
はたして人間の食料になった動植物はいまや野生種が絶滅の危機にあるのをしり目に全世界に広まっているのが事実なのです。
と、まあ一見食文化と関係なさそうな事柄をテーマにしましたが、これも食文化研究の一端であったりします。
(食文化研究家:巨椋修(おぐらおさむ))2020-10