・文:小説家 池田平太郎
・/絵:吉田たつちか
・発行:2020年12月
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「大多数のイギリス人は、ECのためにイギリスの主権を放棄することに反感を持ち、その気持ちは今日までくじけることはない」と言ったのはシュミット元西ドイツ首相である。こう言うと、「ECじゃなくてEUでしょ」という声も聞こえてきそうだが、実は天安門事件が二度あったように、イギリスの欧州共同体からの離脱騒動にも「前」があった。つまり、イギリスは離脱騒動の「前科」を持っている国だということである。
ところで、私は個人的には、イギリス人は同じ島国と言いながら日本人よりはむしろ、中国人に近いのではないかと思っていた。言葉の上でも、日本語は「私は海へ行く」だが、英語や中国語では、「私は行く海へ」だし、「手」を使う職業を蔑視するところも共通しているからである。
事実、イギリスでは、オクスフォード大学やケンブリッジ大学を出た人はメーカーに就職しないという話がある。自ら肉体労働しなくとも、製造業などに従事すること自体が、もはや、ジェントルマンのやることではない・・・というのである。対して、日本では、初めて東京帝国大学経済学部から野村證券に入った人は、「東大を出て株屋になったのか」と親戚中から白い目で見られたという。もちろん、今ではさすがに、そういうことは無いだろうが、それでも、バブル崩壊という苦い経験を経たこともあり、「物作りこそ実業である」というマインドは生きているように思う。
さらに、「日本人は、享保年間創業の提灯店のようなものを有り難がるが、韓国人は軽蔑する」・・・とも聞いたことがある。韓国人のこの意識は、かつては、小中華と呼ばれた国だけに、おそらく、元々は中国から来ているのであろう。これが私が、「イギリス人は中国人と似ており、日本人とは違う」という観を持った理由だが、シュミットのEC離脱騒動における回想を読んでいると、なるほど、イギリスは島国だという観を強くする。
「世界最大の海洋国家はアメリカで、次がオーストラリア」と言ったのは、外交評論家の宮家邦彦氏だが、一方で、「日本はやはり海洋国家。であれば、日本が手を結ぶのは、海洋国家が相手であるべきであって、大陸国家と手を結ぶと、必ず失敗する。日英同盟の時代はよかったが、いつしか、それを解消してドイツと手を組んだため、わけがわからなくなってしまった」と言ったのは愛知和男元防衛庁長官である。無論、ゲルマンが悪くて、アングロサクソンは良いなどということではなく、単純に、相性の問題ということなのだろうが、一考する価値はあるのかもしれない。
(小説家 池田平太郎)2020-12