・文:ジャーナリスト 井上勝彦
・/絵:吉田たつちか
・発行:2021年1月
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歳をとると、身体のいろいろな器官も衰えてくる。残りの歯が少なくなり、食事時には乳幼児のように口の周りに食べ物が付着、テッシュで拭いながらの食事。肛門の筋肉も弱りトイレットペーパーを多く使うので、便器が時々詰まる。足が弱くなり、坂を上がるのに何度も休憩する。
老化とはすなわち、乳幼児に還ることだと認識すれば合点がいく。タバコを吸ったり、お酒を飲むことを除けば、全く幼児そのものである。
臨終間近の老人で、最後まで機能するのが耳だそうだ。そういえば、妻が死去する前日に出来上がった拙書をもって「これで借金も返せるからね」と、耳元で大きな声で話しかけたら、少し微笑んだ気がした。安心したのか、翌日は安らかに逝った。
読書好きを自認していたのに、読む根気がめっきりなくなった。
白内障の手術後、新聞もメガネ無しで読めるようになってはいるが目を連続して使う能力は明らかに衰退している。
そんな中、本を読み上げてくれるスマホアプリ「オーディオブック」にはまっている。これまでも、同様のサイトはあったが、こちらはプロのアナウンサーや声優が本を読み上げてくれるので、仕上がりレベルが格段に向上しており、目を使わない読書が本格的に楽しめる。
とはいえ、やはり、長い小説などは根気が続かないので、あるある事典風の短編集がいい。「理科っぽい見方で日常が変わって見える/そんない理科の時間」や「理科好きな子に育つ ふしぎのお話365: 見てみよう、やってみよう、さわってみよう 体験型読み聞かせブック」など、300本以上の話を気軽に聴くことができる。へーそうなんだという話題が満載で、孫や酒飲み処での会話ネタが豊富になる。なんせ、老人どうしの会話は同じ話の繰り返しなので、新鮮なうんちく話は歓迎される。立川談志の落語も10本聞けたやはり彼は名人だ。
小さい頃、科学や植物、電気など理科系のものに興味があり、鉱石ラジオを手作りして喜んでいたが、どうも数学と相性が合わず、結局文化系の学校に進まざるをえなかったことに、この歳になって少し後悔している。
テレビと違って、ネットラジオは散歩をしながらとか、電車で移動しながらとか、何かしながら利用できるのがいい。昼寝しながら聞くのは健康にもよさそうだ。音楽を聞くのも本を読むのもスマホの登場で便利になったものだ。そういえば、小生の蔵書はネットで売ってしまい、もうほとんど残っていないが、なんの不便も感じない。
(ジャーナリスト 井上勝彦)2021-1